能力開発ニュース46号 1998. 7.15 発行
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「教育革新の思想・テクノロジー・展開」
  (矢口 新 選集)に寄せてA
 未来へ向かう行動
            
    JADECビジネスディレクター 山口 幸次

 矢口 新 選集に次のような一節がある。 『生きているということは、過去を背負って未来へ向かって行動する、ということである。生きていることの本質は前へ進むということである。目の前のことを処理していくということが生きていることである。なんとかしようとしている行動なのである。それを意欲するという言葉で表してもよいかもしれない。一つの行動がある事態を生む。それに対してまた行動が起こる。』
                      (第6巻「生きがいに挑戦する人間の育成」9頁)

 ここでとらえられている未来は、「すべてが過ぎ去っていく」という、脇に立って動く歩道上の人を眺めている視点ではない。しゃがめばその上を流れてやって来るという未来ではない。ここで語られている未来とは、自分を前へ前へ投げ出す行動で作り出していく未来である。自分の人生は、眺められるものではなく、生きるものであるはずだからである。  最近、経団連の新会長が企業の自立、自助、自己責任、を唱えている。これまで多くの日本企業が『人間関係重視』を重視しすぎる傾向があった。企業間、企業と団体間、企業内の上下間に、「暗黙の了解」「魚心水心」「持ちつ持たれつ」的な現象が数多く生まれた。しかし、「一心同体」と自負していた自他の区別もない程の関係でも、ひとたびつまずくと、責任のなすり合いと化していくことが多かった。同じて和せず、である。人脈を頼るイージーゴーイングの風土で、徹底したマーケティング手法が育ちにくいのは当然である。経団連会長が言うように、企業が自立、自助、自己責任を貫くためには、まず社長以下全社員がそれを貫いてこそ可能となる。孤立ではなく個立である。もともと人間の真の協力は一人一人が個性を貫きながら共通の目標を完遂するところに生まれるのである。和して同ぜず、である。

 社員の給与体系に業績評価を重視する企業が急増している。ここで注目すべきことは、目的と結果の因果関係についての概念を「行動する人間」の目の高さに合わせることである。業績(実績)はあくまでも結果である。営業部の例をとるならば、売り上げのバジェット(予算)は目標ではなくあくまでも結果である。「求められている必要な結果」なのである。目標は求められている必要な結果を出すための営業マン一人一人の「行動」である。「分析し尽くされたニーズへの対応」「顧客満足度」など、徹底したマーケティングの習得行動にある。「行動」が自立的に起こせない目標など「人間」の目標とは言えないのではないか。なぜなら営業マンは客先の注文書を勝手に捺印したり、通行人を店内に連れ込んで売りつけることはできない。彼らはこうエクスキューズせざるを得ない。「なにしろ相手のあることですから」。論理が倒錯する。スポーツも同じことである。勝つことを目的にすれば勝てるのなら、負けたときは負けようと思ったのか、という理屈が成り立つ。勝ち負けは結果である。目標は、手法も含めたトレーニング行動にある。目標への行動は意欲次第であくなきまでに追求できる。そこから結果としての真の業績が生まれるのである。それはまた個立した和して同ぜず、の一人一人の社員たちの自分との闘いでもあるに違いない。
         *矢口 新 選集‥‥能力開発工学の創始者 矢口 新(前所長、故人)の著作集

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