能力開発ニュース47号 1998. 9.16発行
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「教育革新の思想・テクノロジー・展開」
   (矢口 新 選集*)に寄せてB  「惰性を断ち切って」                    JADECビジネスディレクター 山口 幸次

 矢口 新 選集の中の一節である。(第6巻「生きがいに挑戦する人間の育成」87頁)
 「新しい仕事をする人たちは、いかなる能力の持ち主でなければならないか。これについてドラッカーは言う。『知識労働者には、挑むに足る仕事が必要なのだ。そして知識労働者には自らが貢献していることを意識することが必要なのだ』。つまり、自主的に仕事を見つけ出し、その仕事のために働く人のことを言う。自らのビジョンを持って働く人と言ってよいかもしれない。新しい知識労働者は、従来の単なる技術者と同様ではない。むしろ従来の技能者と技術者とを合わせ持った人と考えた方がよい。『知識によって技能が必要でなくなるということはない。反対に知識は現在急速に技能の基礎となりつつある。』『技能を伴わない知識は非生産的である。技能の基礎として技術が用いられてはじめて技術は生産的なものとなる』。生産的な知識を持って具体的な仕事のできる作業人なのである。それは創造的な能力を働かすことのできる人なのである。」

 今、企業の組織のスリム化が加速している。これまで、屋上屋を重ねるような、英語で表現しにくい重複的なものも多く見受けられた。事業本部、事業部、統轄本部、統括部、営業本部、営業部、営業推進部、技術本部、技術部、室、グループ、担当部、専任部、など外部の人には理解しにくい複雑なものも多かった。より組織を細分化することでより綿密な仕事ができる、という概念がその根底にあったと思われる。しかし実際は、仕事に人をあてがう、というのが企業の本質であるのに、人のために仕事を分化して新しい組織を作るといった傾向もあったと思われる。しかし人の身体も人の組織も肥満化は危険である。重複した、なあなあの組織は手柄の奪い合い、責任のなすり合いの元凶となり、自立、自助、自己責任の気風は生まれない。
 組織が増えれば中間管理者も増える。中間管理者の仕事は明確ではなく、極端な場合、悪い言葉で言えば、上と下に仕える上女中、下女中として気を配るだけというケースもあり得る。彼の場所は、時間と共に実際の仕事人である部下と技術面・技能面で遅れをとりやすい不安定な場所となり、生産性は低い。企業がサバイバルのために組織をスリム化しようとするのは当然である。北欧では、役職・肩書を全廃し、4年で売上、利益を倍増し、株価を10倍にした企業も出ており、肩書廃止企業が続出しているそうである。組織の効率化はシンプルに尽きる。
 知識労働という言葉がある。企業にとって手を用い技能化されて仕事に使えるものにならなければどんな新しい技術や知識も単なる知的アクセサリーに過ぎないだろう。肉体労働という言葉がある。首と離れた胴体だけがシャベルを使うはずがない。身体の頭脳以外の部分を使う仕事も実は頭脳の働きなのであり、頭脳も肉体と共に消滅するのだから、知識労働、肉体労働などと区別するのはもはやナンセンスというべきかもしれない。企業は惰性を断ち切り、固定観念を捨て、仕事という名の人間の行動の本性を見抜き直すときが来たのではないだろうか。
          *矢口 新 選集‥‥能力開発工学の創始者 矢口 新(前所長、故人)の著作集

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