能力開発ニュース48号1999.1.25発行
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反観合一」−プラス・マイナスの両面を見ることの重要性−
                能力開発工学センター理事 奥田 健二

 三浦梅園(1723〜1789)は、江戸中期を生きた哲学者である。彼の思想のキーワードは、「反観合一」である。彼は、ものの本質を正しく見るためには、互いに反しているものの一方を切り捨ててしまうのではなく、反したままで一つに合している関係をそのままに観ることが基本であるという。彼のこの真理追求の方法は、東洋の伝統的な相補性思考に立脚するものである。梅園は、中国において、道教の教理の体系化に貢献した陶弘景(456〜536)を深く尊敬していた。従って梅園の哲学思想の根底には道教の原理があったのであり、老子の相補性の考え方が流れていた。

環境重視の考え方を裏付ける
 さて、老子の考え方などというと、私共の日常生活にあまり関係のない考え方だという印象を持たれる読者諸賢もおられるかもしれない。しかし、反観合一というような相補性思考は、たとえば現在の緊急な課題の一つである環境問題についての正鵠な見方を私共に提供してくれている。
 現在環境汚染の原因として取りあげられているフロンを例に挙げて考えてみよう。このフロンが開発されたとき、それは無色無臭、無毒な化学製品であるとして産業界において大歓迎され、電子部品の洗浄剤、エアコンの冷媒、スプレーの噴霧剤等として広く利用されたことは周知のことである。しかし、このフロンガスには、このようなプラス面があるだけではなくそのプラスに反するマイナス面、即ち地球のオゾン層を破壊する作用のあることがその後次第に認識されてきた。現在このフロン使用について規制が行われているが、既にフロンによってあけられたオゾンホールは、依然として拡大を続けているというのである。
 問題はどうして発生したのか。それはモノの一つの面だけを見て、それに反する面をも同時にとらえ、プラスとマイナスの両面を持ったものとして全体的に観ることによって、モノの本質は正しく把握できるという考え方をとることができなかった思考の貧困によるのである。すなわち、フロンの一面だけに気を取られ、それに反する面を同時にとらえるという全体関連的・相補的見方を当初見失っていたことによるというほかないのである。
 このように考えてくると、反観合一というような東洋的思考方法は、次代の環境問題の解決のみならず、将来における問題発生を未然に防ぐためにも、今いっそう身近に活かされなければならないことがわかるのである。

いわゆる「ヒューマニズム」の超克
 環境問題の発生は、いわゆる「ヒューマニズム」の考え方の誤りに基づくということが最近いわれだしている。ヒューマニズムなどというと、日本人はたちどころに降参してしまうのだが、しかしヒューマニズムという考え方は、人間中心に偏した結果、他の生物の生存を無視するという欠陥におちいった。この点、道教の立場は人間を大切にすると同時に、他の凡ての生物を人間と同等に扱うのである。その具体的考え方を老子や荘子から数多く引用することができるが、ここでは省略することにしよう。地球環境問題について検討するにあたっても、私共は東洋思想から再出発することが有益なのではないだろうか。
          (東亜大学大学院総合学術研究科教授、元NKK理事教育部長)

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