能力開発ニュース48号1999.1.25発行
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現場マン教育拝見−日本ピストンリング栃木工場訪問
 トラブルゼロをめざして  TPM後の電気系技術レベルアップ
                       
能力開発工学センター 矢口哲郎 記

 東京から東北線で北へ向かい、宇都宮の少し手前、古河駅を過ぎたころ左に見える日本ピストンリング栃木工場を訪問して、同工場の現場マン教育について保全課の都外川(とどがわ)課長さん、課員の野村さんからお話を伺いました。この工場は、車や船のエンジンの中にあるバルブを動かすロッカーアームなどを主に作っている数百人の工場で、TPM(生産保全)を3年ほど前から実施していて、大変きれいな工場でした。JADEC(能力開発工学センター)との縁は、1年半前の研究集会(JADEC主催)に参加したのが最初、現場マン教育の実践報告(松下電池工業)などを聞き、その後「電気・シーケンス制御入門」学習教材(JADEC開発)を導入して、教育を始めて1年以上経過しています。
 運用上いろいろ工夫されていると聞き、昨年暮れに訪れました。

TPMをやって故障が減ったが、無くならない
自動化された加工機のオペレータである現場の人々は、機械系の高校を卒業した人たちが多いそうで、TPM活動の中で設備の勉強をしてきて、トラブルも減ってきたが、無くなるところまでなかなかいかないとのこと。リミット、センサーなどが原因だったりするが、電気はなかなか難しい(見えない?)のでなんとかしたいと思っていろいろ教育を調べた(TPM関係の教育など)が、JADECの教育思想とその教材「電気・シーケンス制御入門」が一番良さそうだと思ったとのことでした。
教育の目標は、「電気に自信を持ってもらうこと」、「全体回路の中でのセンサーの役割がわかるようになること」などにおいて、研修をスタートさせたそうです。

研修ルームは「夢道場」

 伺ったのが昼過ぎだったので、研修風景は見せて頂けませんでしたが、研修ルームを見せて頂くことができました。都外川さんの命名で「夢道場」と名付けられた研修ルームは、静かで広いスペースでまわりに教材やカットモデルやシーケンスのデモ機器などが置いてありました。「夢道場」という名前は、都外川さんが、研究集会で聞いた「学習者にのびのびできる学習環境が必要」という報告の言葉からヒントを得て、工場の中で環境のよい場所を苦労して確保して、命名されたそうです。
栃木工場の研修ルーム

指導者としての電気屋さん(保全担当者)の抵抗?をなくすことから
 導入に関してもっとも配慮したことは、身内である保全課の人々に、教材の内容や方法をよく理解してもらうことだったようです。指導者側である「いわゆる電気屋さん(保全担当者)に壁があった」というお話でした。電気屋さんは専門家なので、「電気のことは現場の人間にはわからない」、「勉強させても無理」だという考えがあるのだそうです。その考えを変えてもらうことが第一歩でした。そのために、いまはインストラクター(講師)を若い人にやってもらっていて、うまくいっているとのことでした。

現場の長を中心に、昼休みグループで研修開始

 
教育の受け手としてまず始めに現場の長(班長)にやってもらおうと考えたのも、もう一つの重要な配慮だということでした。3名1グループで、4グループ編成し、週2回の昼休みに交代で行うこととして、「電気の基礎」「シーケンス制御の基本」などの研修内容を実施したとのことでした。
現場の長に研修の内容、方法をよく理解してもらってから、徐々にその部下に広げていくという順番が、一番よさそうだということです。現在までのところ時間がかかっているが、順調に進んでいるので、この調子で焦らずやりたいということでした。

研修ルームの周囲に置かれた様々な教材



テキストの内容に、現場の事例を付け加えて‥‥

 
実際の研修の指導責任者である野村さんのお話では、「助かりましたよ、内容がピシャッとしてて…」ということでした。「教材がしっかりできていて、やらせたいことがはっきりしている、知ってもらいたいことが入っている」、「テキストに沿いながら、現場の例をその中に盛り込んで、こんな故障が起きるんだとか、こういうことがあるんだなど、故障部品を持ってきて、見せたりしてできるんですよ」という話もしてくださいました。また「テキストで使っている回路図記号はJISのものだけど、工場で使っているものを見せたりする」という工夫もされているとのことです。

「電気・シーケンス制御入門」の学習教材

今後の予定は、よりおもしろく、より多くの人に
 現在考えていることは、「インストラクターにおもしろい教材だと思ってもらう」ということだそうです。また学習者がわかってくると「きっと現場のものを持ってきたり、話題にするようになるのではないか」と期待しているとのことでした。内容的には、来年度以降PC(プログラマブルコントローラ、シーケンサ)などを使うこともやっていきたいということでした。
 さらに都外川さんからは「現場のオペレータだけでなく、間接部門である生産技術の人間にも勉強させたい」というお話もでました。設計ばかりで本当に分かっていない人間もいるようだとのことでいろいろとアイディアがお有りのようでした。
 全体として、大変堅実に教育をされているのだなという感じです。保全担当の人々、現場の人々の考え、力に合わせてじっくり進めていることは注目すべきところだと思います。いたずらに結果、効果を求めず、人に合わせた教育であることは、必ず多くの人々に受け入れられることと確信します。教材の開発者としては、今後の展開を楽しみに見守っていきたいと思います。


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