能力開発ニュース48号1999.1.25発行
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面白がる授業づくりに向けて
     ―富山「探究クラブ」実践報告―
   北陸ADE会員 米島 秀次(富山県総合教育センター所長)
 

「探究クラブ」1年9ヶ月経ちました!
 昨年4月より「本物の教育を考える会」の北陸支部(北陸ADE)会員によって、子供たちを対象とした学習教室「探究クラブ」(会場:富山市東部児童館)が開かれています。教室の開設のねらいや概要については、本誌45号(98年3月刊)で明瀬正則氏(富山市)により紹介済みなので、詳細は省略させていただきますが、

@ 子供たちに「科学する心」を育てる
A 多くの先生方に子供たちの学習する姿や
  探究クラブの「学習システム」を見ていた
  だき、「本物の教育」のヒントをつかんで頂く

という二つのねらいがあります。
 さて、「探究クラブ」は休むことなく1年9ヶ月を経ました。月2回の開設とはいえ、継続するためには教材の制作や準備、日程の調整、子供たちへの連絡など大変な努力が必要です。私も時々手伝っていますが、「探究クラブ」の企画や運営の中心は北陸ADEの先輩方で、その熱意と努力には本当に頭が下がります。
 では、「探究クラブ」の成果は? 課題は? 
その後の概要をお知らせします。

実践の成果
 参加している子供たちの学習システムは、「電気」を題材とした探究のプログラムやワークブックを使いながら、実験・観察、予想、判断、話し合い等を行うという行動を通して、探究行動を育てるというものですが、開設当初の児童の行動は学習システムのねらいとはほど遠く、インストラクターもずいぶん苦労しました。
 
●子供たちの行動に驚く
 予想していたことですが、当初の子供たちの行動には驚くことがたくさんありました。たとえば、プログラムシートを使っているわけですが、これを他の人より速く進め、誰よりも良い子でありたいという行動が見られること。また、実験や観察の結果に関係なく、これまでの知識を駆使してワークブックに速く正解を書くことをよしと思っている子供、さらには、自分が行った実験や観察に関係なく、隣の人のワークブックをすばやく盗み見して記入しようとする子もいました。このような子供たちの行動を見ていると、これまでの私たちの授業がいかに結果重視、正解重視、知識偏重であったかを思い知らされたような気がします。
 
●自分で見て考える力を育てたい
 これまでの知識を捨てて、事実をしっかり見ること、事実を基にものごとを判断すること、正解は一つでないこと、みんなで話し合うことなど、インストラクターはじっくりと子供たちの行動を育てることに努めました。
 回を重ねるに従い、少しずつではありますが、「学習する態度」や「ものの見方(探究行動)」「グループでの話し合いのしかた」などが身についてきたように思います。
何よりうれしいのは、教室に通ってくる子供たちの数は少ないけれども、一人一人が楽しく学習しているということです。

 
●子供たちは忙しすぎる
まもなく新学習指導要領が公布されます。改めて言うまでもないことですが、今回のねらいは、「ゆとりの中で生きる力を育む」ことを基調とし、学校も週5日となります。「探究クラブ」に通う子供の中には他の学習教室を終えるやいなや母親の車で駆けつける子供がいます。「探究クラブ」からまっすぐ次の教室へ出かける子供がいます。子供たちはあまりにも忙しすぎます。もっとじっくり学ぶゆとりを与えてやりたいものです。

教師の意識の転換に期待する
 「探究クラブ」の開設には、子供たちに「科学する心と行動」を育てたいというねらいの他に、この教室に小・中学校の先生方にも参加していただき、
@ 科学する心や探究行動を、どのように育てたらよいか
A 学習とは何か
B 教師の役割とは何か
を学んでもらいたいというもう一つの大きなねらいがあります。
そこで、富山市の広報に募集を掲載したり、親しい先生を通じて参加を募ったりしていますが、なかなか多くの参加が得られないのが実状です。いっそうの工夫が必要です。

 
●教師を多忙から解放するには
いま学校は、いじめ・不登校への対応や児童生徒の教師に対する信頼感の喪失、パソコンの導入やインターネットの開始など教育の情報化への対応など、課題が山積しています。いま先生方のもっとも大きな悩みはクラス運営と生徒指導です。それに情報技術の習得などが加わり、毎日が多忙で駆け足の状態です。
一方、研修などにより学校を離れることは、「生徒とのふれあいの時間」の減少につながるということで、校外研修には各学校とも頭を抱えています。

 
●「面白がる授業」をつくろう
 しかし、このようなときこそ、学校とは何かをもう一度考えてみる必要があります。学校は毎日の授業が勝負です。いじめも不登校も「授業がおもしろくない」ことから始まります。それ故、教師は「子供たちにとって、学習するとは何か」ということを原点に帰って考え直してもらいたいと思います。これが「探究クラブ」にたずさわるものの願いです。

新学習指導要領の施行に向けて
 新学習指導要領の改訂のねらいは「ゆとりの中で生きる力を育む」ことを基調とし、
@ 豊かな人間性や社会性の育成
A 自ら学び、自ら考える力の育成
B 基礎・基本の重視
C 特色ある学校づくり

を重視しています。
 「探究クラブ」で実践されている学習システムの設計の基本は、新指導要領の改訂のねらいそのものであると言っても過言ではありません。このことは、かつて矢口 新 先生がよくおっしゃっていたことで、今更という感も無きにしもあらずですが、いじめや不登校が増加し、ようやくみんなが気づき始めたということでしょう。
 矢口先生に初めてお会いしたとき「私が言っているほんものの教育が行われるようになるには30年かかるよ」と言われた言葉を思い出します。
 あれから30年が過ぎました。「ゆとり」と「生きる力」を育むとは、具体的に児童生徒にどんな「行動」ができるように支援してやることなのか、紙上のプランでなく、私たちは今度こそ「ほんものの教育」を実現させなければなりません。

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