能力開発ニュース48号1999.1.25発行
能力開発ニュースのページ  JADEC-TOPページ

◆シリーズ★「教育革新の思想・テクノロジー・展開」に寄せてC
     −社会の指導者
                  
JADECビジネスディレクター 山口 幸次

 現代の人々は生活の実体の中で、人間をつくることを忘れている。教えるものがまず己を正さなくては人を育てることができないということを忘れている。社会の指導者がそういう点で悪い範を垂れている。もっと反省しなくてはならない。家の中も同じことである。さらに人々は人間の心がどうあらねばならぬということは語るが、いかにしてそうあらしめるかを語ることがない。それは言葉で要求すればできると思っているかもしれない。要するに、修身的説教方式しか方法がないのである。生活が心を形成する、行動が心を形成することを根本から認識し直さねばならないのではないか。
 矢口 新 選集第5巻の冒頭にある示唆に富む一節である。
同族経営の大型企業が行き詰まり粉飾が暴露した事件が相次いでいる。おそらく創業当時は仕事の実体の中で行動し、身体で把握していた実体が、会社が大きくなるにつれて報告という他人を通して情報という言葉と文字だけで「知る」だけになる。そして祭り上げられて身についた虚栄を満たすために虚勢を生み、虚勢を維持するために虚飾を重ねたのであろう。

 大企業の事務系の管理者だった人を採用したがらない中小企業もあるようだ。彼らは、何々は如何にあるべきかなどという概念論を観念語を多く使って話はできるが、自分でコピーやワープロを自由に使えない人も少なくないという。言葉や理論を操る人よりも技能を持ち、行う力が身についた人が、中小企業では要るのである。「どうあらねばならないか」というのは説明であり、当人の解釈である。今の時代は経済問題が経済の論理の中だけではとうてい解釈できない複合要因社会ともいうべき新しい時代に突入しているのではないだろうか。極論すれば、実証できる自然科学の数式以外はどんな精緻な理論も実証しがたい単なる見解の一つにすぎないのではないだろうか。しかし、行動にはいつも理論では到底得られない豊かな何かがある。
 日本のある業界第一位のCEO(Chief Executive Officer)は常に現場・最前線を自分の目で把握し、かつ仕入れ業者に天丼一杯ご馳走になっても懲戒解雇という自他に厳しいシステムとルールを決めている。また世界屈指の流通業のCEOがいつもYクラスの飛行機に乗り周囲の人との話から情報をつかんでいるそうだ。常に自社批判を怠らず、自立、自助、自己責任を基本に仕事の実体の中で人事を尽くして経営しているからこそ現実から遊離しないのである。優れた経営者がいるのである。経営の秘訣などない。

教育革新の思想・テクノロジー・展開
      矢口 新 選集(全7巻)

第1巻 教育革新への提言
−脳科学を土台にした行動形成−
第2巻 能力開発のシステム
第3巻 探究的行動力を育てる学習システム
第4巻 コンピュータリテラシー教育の提唱
     教育へのコンピュータ利用の研究
第5巻 創造する心・技術の形成
第6巻 生きがいに挑戦する人間の育成
別 巻 地域教育計画とその展開
      −富山県における実践−
頒布価格 20,000円(送料、税別)
*能力開発工学の創始者 矢口 新(前所長、故人)の著作集

能力開発ニュースのページ JADEC-TOPページ