能力開発ニュース49号1999.4.5発行
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小さな成功を積み上げて大きな改革へ

           能力開発工学センター理事 奥田 健二

 ニュースNo.47で、二宮尊徳が農村改革のために、農民自身の中から湧き出てくる内発的エネルギーを尊重したことにふれた。今回も、この尊徳の言行から学ぶべき点について考えてみよう。

畑の草を刈る場合、どの畑を先にすべきか
 一方に雑草が盛んに茂っている畑があり、他方に雑草はそれほどまでに茂っていない畑があり、あるいはその中間の状態の畑が混在しているとしよう。それらの畑の雑草をすべて刈り取らねばならないわけであるが、どの畑から先に手をつけたらよいのか、尊徳は自らの考えを次のように述べている。
 考え方としては、最も盛んに雑草の茂っている畑からまず取りかかるべきだとすることもできるだろう。しかし、尊徳は「茂っている草に手間をとられ、時間をかけてもなかなか完全に草が抜けきれない。その間に現在はそれほど雑草の生えていない畑においても、草が急速に茂ってしまい、全体的状況はむしろ悪化してしまう」というのである。このような状況に直面した働き人達は、いくら一生懸命に働いても、達成感を味わうことができず、意気阻喪してしまう。そのような状況に陥ることを避けなければならないと尊徳はいうのである。
 そして彼は、草がそれほどまでに茂っていない畑からまず手をつけるべきだとするのである。畑の雑草を抜き終わって人々は、達成感を共有する。そして意気の上がった状態で次の畑に取りかかるということが大切だとするのである。なるべく早く成功の喜びを皆で味わうことができるように配慮することが、人々の積極性を引き出すために必要なことだとするのである。

具体的な成功モデルを提示する
 尊徳は、農村改革を進めるにあたっても、上記のような方針を貫いている。幾つかの農村の改革を手がける場合、改革の達成が最も可能と見込まれる農村から開始することが大切だとするのである。そして村の改革が行われた場合、人々の生活はどうなるのか、具体的な成功例を提示することによって、改革への意欲が次々と伝播することとなるというのである。尊徳は、農村の改革は上からの権力によって強制的に実行できるものではなく、農民自身の改革への意欲が高まることが根本であることを確信し、そのための方策を慎重に考えていたのである。
 ニュースNo.47においての、相馬藩の農村改革の場合は事情は若干異なっており、尊徳の上掲の方針は修正されている。即ち改革対象の候補として指名されてきた農村は、条件的には困難性の高いものではあったが、しかし当該農村側の人々自身の改革への熱意が高く、尊徳はその熱意を高く評価して改革を引き受け、成功に導いたのである。

人材の育成においても成功体験が重要
 人材の育成にあたっても、上に論じた配慮はきわめて大切である。キャノンの社長を経てテトラポット社の会長をされている山路敬三氏にお会いしたときに、氏が新入社員の頃の上司が、成功体験を積み上げることができるように仕事を適切にアレンジしてくれたと感謝の言葉を述べておられた。まず一つの仕事において成功し、さらに高度の仕事に意欲を持って向かうように配慮することが大切なのであり、基本は何事についても同一なのである。  (東亜大学大学院教授、元NKK理事教育部長)

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