能力開発ニュース50号1999.6.18発行
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脳を目覚めさせる

能力開発工学センター事務局長 小沢 秀子

 最近、ある学校の教官から、学校で使うビッグなコンピュータシステムのテキストについて意見を求められました。そのテキストが学生のレディネスや興味に合っていないので改造したい、そのための会合に出てほしいということです。
 対象となっているシステムの名前を仮にXシステムとしましょう。事前に手渡されたテキストを見てみると、「Xシステムの変遷」「Xシステムを取り巻く国際及び国内的環境」「Xシステムの概要」と続きます。システムの学習を目的としたテキストによく見られる一般的な組立てです。
 初心者の私にとっては見慣れない用語だらけで、しかも肝腎の知りたいことは一向に出てこないという感じで、5分もすると眠気を催してしまいそうです。もしこのテキストに沿って説明されるとすれば、授業もさぞ退屈だろうなと思われます。このテキストで学ぶのは、高校を卒業したばかりで、もちろんXシステムについては全くの初心者です。
 人間の脳は、本来、これは何だ?という疑問をもって対象を追求する、ということを「快」とする有機体なのです。疑問が解明できると意欲がわいてまた次に挑戦するという具合に進んでいけば、学習は楽しくなります。
 ところが、このテキストには、Xシステムに精通している人がその人の知っていることを次々に叙述してあるのです。初心者にはチンプンカンプンという展開です。
 では、どうするか。会合では、始めに初心者なりの「全体像」を持たせることを勧めたい、と提言しました。

初心者にとっての「全体像」とは
 先のXシステムについていえば、それが何をするシステムか、を思い浮かべるということです。もちろん既にこのシステムに精通している人はしっかりしたイメージを描くことができます。初心者がそれと同じようなイメージをもてるのは、学習が終了した後です。
 しかし、初心者であっても日常見聞きするものから類推することはできます。銀行預金システムのようなものか、航空券の予約システムのようなものか、電報を送るようなシステムか、あるいは、情報を運ぶハイウェイネットワークのようなシステムか、というようなレベルで全体像をもつことはできるでしょう。それは正確でなくてもよい、おおよそこのようなもの、という程度で十分なのです。
 言葉で説明するだけではなく、実際にシステムが動いている現場を調査したり、模型などを使ってシステムの働きをシミュレートしてみたりすることも必要でしょう。とにかく学生が自分で考えるような工夫をしたいわけです。

脳が目覚める
 「全体像」がもてれば、頭のなかに疑問がわきます。すなわち、知りたい項目がでてくる、学習の意欲がわきます。脳が目覚めるのです。仮に、Xシステムが情報ハイウェイのようなものということになれば、どういうことを知りたくなるでしょうか。
 ◇ネットワークはどこからどこに張り巡らされているのか
 ◇どういう情報が運ばれるのか
 ◇その情報は誰がどのようにして利用するのか
 ◇情報を作って入力する人は誰か、どうやって入力するのか
 ◇情報はどのようにして運ばれるのか
などなどでしょう。
 テキストは、こうした問いに答える形で編集されるのがよいということになります。Q&Aの形で、学習する人が順序を自由に選べるようにするのもよいでしょう。Aを示さずに、それを学習者たちに調べさせることができれば、学習はもっと楽しく、そして確実なものになります。
 先のテキストにあったような、「Xシステムの変遷」とか「取り巻く環境」などは、こうして、Xシステムが何であるかがつかめた後、ようやく学ぶ人にとって問題となる事柄ではないでしょうか。このようなテーマこそ、学生が自主的に調べるのにふさわしいでしょう。調べるための資料の整備などを的確に行い、調べる方法を教えれば、学生たちは張り切ってやるでしょう。それは仕事に役立つ実力となるでしょう。
 学習の動機づけとは、その学習に必要な回路を目覚めさせるということではないでしょうか。回路を目覚めさせるためには行動が一番ですね。会合は、こんなことを話し合って終わりました。さきの教官始め会合に参加した教官達は、大賛成。ぜひ協力してほしいということになりました。

 
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