能力開発ニュース52号2000.8.28発行
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[実践報告]
   IT時代の教員を育てる「夏季コンピュータ研修」開催
            −茨城県水海道市にて−

<編集部>

■50年の歴史の上に
 水海道市では、15年前から教員向けのコンピュータ研修を実施している。当初は、能開センターが開発した「コンピュータ学習システム」を用いた10日間の本格的なコースを実施したが、最近は本格コースは指導者のみとして、一般教員には2,3日の短期コースで行うようになっている。
当センターは、『指導者養成コース』についてはカリキュラム立案から教材提供、さらに実際の指導までのすべてを担当すると共に、一般教員向けの研修についても毎年さまざまな形で協力してきている。能開センターと水海道市との縁は、前所長の矢口新が国立教育研究所時代にスタートしており、数えれば実に50年になる。市内に3校ある中学校と9校ある小学校が「自分で考え、行動する」子供たちを育てることに組織的に取り組んできている。
 この歴史の上に、今年も夏の真っ盛りに下記のような「コンピュータ研修」が行われ、能開センターからは、矢口哲郎研究開発部長を筆頭に、叶内盈子、白尾彰浩、小池いづみ他の、いずれもIT技術の教育経験豊かな強力メンバーが出張して、指導に当たった。
  <日時>7月27日(木)、28日(金)、8月1日(火)
     時間:8時30分〜16時30分(1日の正味学習時間は6時間程度)
  <研修コース及び会場>
      1.初心教員研修(初級コース)   水海道中学校にて3日間
      2.一般教員研修(中級コース)   水海道西中学校にて2日間
      3.リーダー教員研修(上級コース) 豊岡小学校にて2日間
 昨年までに『指導者養成コース』に参加した教師たちが先輩としてさまざまなアドヴァイスを行った。これにより、受講生の個別の疑問に答えることができ、研修の効果をあげることになっている。

■カリキュラムと教材を工夫して
 社会のネットワーク化、IT化に対応して、教員に必要なコンピュータ能力をどう考えるべきか。
 学校教育へのコンピュータの浸透も、ここ数年の間に急速に進んでいる。(すべての小学校に20台、中学校に40台のコンピュータが配置された。)更に「2005年までにすべての教師が、すべての教室からインターネットにアクセスできるような環境づくり」も文部省政策として強力に推進されている。
こうした状況を踏まえて市と能開センターは、昨年までは東京で行なっていた10日間の指導者養成研修を取りやめ、全力をあげてできるだけ多くの教員のレベルアップをめざそうと相談してきた。もちろん、昨年までのカリキュラム、教材も全面的に改訂した。
 学ぶべき技術は増えるが、研修の時間は2日または3日という限られた時間しかない。インストラクター陣は、それぞれに教材を工夫し、得意のIT技術を駆使して連絡を取り合うという大奮闘ぶりの準備で臨んだ。何とかして研修に参加したすべての教師たちが楽しく充実した時間を過ごせるように、というのが、インストラクターたちの目指したことであった。
 そのためにどんな教材を準備し、どんな指導をしたのか、これらの詳細については、能開センターのホームページにのせる予定であるのでそちらに譲るとして、ここには内容のあらましと受講した教師たちの感想、学習風景の写真などを紹介しよう。

  ★初心教員研修(初級コース、受講者33名)

・パソコンの基本構成とWindows基本操作
・ワープロ入門(ワープロ専用機とパソコンの違い)
・いろいろな種類の文字入力の切り替え
・キーをみないタイピング(タッチタイプ)学習紹介
・文書作成・ファイル操作になじむ
・ファイル、フォルダ、メモリの基本
・電子メールを利用する(電子メール利用の基本)
・インターネットを利用する
(ホームページとは、インターネットとは)
・インターネット利用のいろいろ
・パソコンとのつきあい方(今後の日常研修)
テキスト(左手)の指示に従ってマウスを動かす

◇ 3日間の研修、本当にお世話になりました。コンピュータ研修でこんなに分かりやすくて、できたと思えたのは始めてです。ちょっぴり進化した気分です。(H.Iさん)
◇ おもしろくて、楽しくて、<うふふ>という感じです。この3日間は、非常に充実した3日間でした。来年も是非参加したいです。できれば中級で…!(T.Tさん)

  ★一般教員研修(中級コース、受講者19名)

○フォルダ、ファイルを自由に扱う
(作成、削除、コピー、移動)エクスプローラ
○ 文字ファイルとグラフィックファイル
・ワープロ文書に画像を貼り付ける
・文字ファイルとグラフィックファイルの違い
・プログラムとデータの違い?
○電子メールのいろいろな使い方
・インターネットで検索し、文書を作る
・メールで文書を添付して送る。
○イントラネットにホームページを作る
・イントラネットを利用する
 掲示板、アンケート、ゲーム、
・イントラネットにホームページを作る
ファイルの共有、ツールでHPの作成


休憩も忘れてメール作りに熱中する

   
◇ なんか少しですが,できるようになった気がして嬉しいです。パソコンと向き合ってがんばろうという気持ちになりました。(今までは,パソコンと聞くだけで逃げていたんです。)これから,仕事だけではなく,個人的にも楽しみながら使っていきたいです。本当にお世話になりました。(R.Fさん)
◇ なんかパソコンがとっても楽しくなりました。本当にありがとうございました! (K.Kさん)
◇ 早速家に帰って,研修でとった写真を友達にメールで送りました。この研修を生かして,ぜひ2学期は成績をエクセルでつけたい!! そして,学年便りをワードで作りたい!!!です。この2日間の研修のおかげで,私のパソコン生活が少し快適になりました。(K.Fさん)

  
★ リーダー教員研修(上級コース、受講者12名)
◇ これまでの2年間,校内ネットワーク整備から,校内イントラネットの設置まで行ってきました。
昨日,今日の2日間本当にわかりやすく楽しい研修でした。この夏休み中に,メールサーバーの立ち上げと掲示板の設置を実施したいとおもいます。
まだ,学校ではコンピュータ教育に積極的な先生とそうでない先生の差が大きく,そのためにも,イントラネットを活用しコンピュータの利便性に触れてもらう必要があると思います。
二日間とても疲れましたが,とても楽しい時間を過ごすことができました。(T.Iさん)
◇ 今まで何年間も夏の研修に参加しましたが、本年ほど充実した研修はありませんでした。今回の研修を生かしてぜひ職員室の中にネットワークを構築していきたいと思います。
なにより,矢口さんの構想で感心するのは研修を一過性のものとせずに,将来を見すえた広い視野でとらえていることです。これからもよろしくお願いします。(K.Kさん)

・LANの接続
・ファイル、プリンタの共有
・Webサーバーの設置
・Webの作成
・Webアプリの設置(CGI)
・つづき
・メールサーバーの設置
・各校での利用


アドヴァイス役の先輩とイントラネット談義?

■「七夕研修」から「後引き研修」へ
 今回の研修の合い言葉は、「七夕研修からの脱皮」であった。というのも、教師たちは、日常の教育活動には、文書作成かせいぜい成績処理の計算などにワープロやソフトを使う程度で、その他には全く使う必要がない、という状態なのである。通信やインターネットなどはまだまだ学校の日常生活には位置付いていないのである。だから、ほとんどの教師たちにとって、コンピュータは、年に1回、研修の時にだけ操作するものとなっている。年に1回、まるで七夕のように、コンピュータに出会うというわけである。
 これでは、身につく筈はないし、第一教師たちにとって、本当の意味の必然性もはっきりしない、ということになる。
 そこで、今年は、この研修をキッカケとして、教師たちが日常的にコンピュータを使うようになること、使いたいようになること、を目標とした。これを名付けて「後引き研修」。
 そのための具体的なアクションは? 矢口哲郎部長によれば次の通りである。
 「まず、みんながコミュニケーションの手段として、気軽に日常的にコンピュータを使えるようにする必要がある。そのための条件整備としてイントラネットの活用を進めたい。受講された先生方同士は勿論、校内の他の先生、さらに他校の先生とも気軽にメールのやりとりをすること、学校のホームペ−ジを充実させ、掲示板などでディスカッションをすることなど。これらを一部の教師だけでなく、全員がやれるようにしていきたい。
 そのために各校の中核となるリーダー役の教員と能開インストラクターグループとで推進委員会のようなものを作って3年計画ぐらいで進めたい。もちろんその連絡にもIT技術をフルに活用したい。とにかくできる限りのサポートをしていきたい。」

 今回実施した研修の背景には、1年余りに及ぶ学校現場の調査がある。これは矢口部長が富山県、兵庫県、水海道市に出向いて現場の教師たちとの話し合いを行い、メールのやりとりによって継続してきたものである。調査からはっきりしたことは何か? これについては、調査報告「情報化は学校が主体性をもって −手作りのイントラネットを核にした情報化の推進を−」にまとまっている。(お読みになりたい方は能開センターまでご請求ください。) 今回の水海道研修は、この調査に基づいた構想を出来る限りで実現してみたのである。(文責 小沢)

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