能力開発ニュース52号2000.8.28発行
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  シニア社会のIT能力開発
    〜東京三鷹市で始まった「パソコンリテラシー研修」〜

    ヒューマン・ホット・プランニング(JADECインストラクター) 白尾 彰浩

■シニアが主役のコミュニティ活動
 昨年10月に東京都三鷹市に「シニアSOHO普及サロン・三鷹」という任意団体が発足した。中高年者が持つ豊富な経験を活かして、地域コミュニティに新しい貢献をしていくことを目指して結成されたグループである。高齢者の活性化を図る時代の流れを受け通産省の助成金なども得て、今年はさらに広がりを見せている。「シニアのノウハウとキャリアを活かして、これまでの企業という枠にとらわれず、地域社会に貢献する新しいライフスタイルとコミュニティビジネスを起こそう」という発起人の呼びかけに、100名を越える会員が集まった。三鷹を中心とする広報にも関わらず、入会の問い合わせや申し込みは、千葉、栃木、茨城、神奈川など関東一円に広がっている。遠く仙台からの取材の申し込みなどもあり、応募者は30人くらいかとの当初の予想は大きくはずれ、シニア層のエネルギーとニーズを強く感じさせた。

■IT基本スキルを「リテラシー研修」で
 この会の活動の柱は三つある。一つ目は、パソコン・インターネットを活用するための「リテラシー研修」、二つ目は、情報交換や自分のキャリアを再発見するための「交流事業」、そして三つ目が、各人の経験を活かして地域ニーズに応える「ビジネスマッチング事業」である。今回紹介するパソコンリテラシー研修は、このような地域に貢献するシニアの新しい活動のための基本スキルを育てるためのものとして位置づけられている。コミュニケーション手段としての電子メールはもちろん自分の経験を表現するためのワープロからホームページ作成による情報発信まで、パソコンとインターネットを活用することは不可欠な状況である。

■能開方式プログラム教材を開発、研修実施


アドバイザー認定研修の様子
 三鷹に住む私は、昨年この話を聞き、そのような目的ならば是非とも本物の実力のつく実践的な研修を行えればと考え、幹事役員に提案して了承を得た。イメージにあったのはもちろん、能力開発工学センター方式の学習者が主役の「行動的プログラム学習システム」の姿だ。

 早速、能開センターの了解を得て、同センターがこれまでに実践してきたパソコンリテラシー研修のプログラムをアレンジすることに着手した。そして、昨年暮れから今年二月にかけて三鷹のシニア向けのWindows入門研修教材(プログラムテキスト6冊と学習用ファイル群)を開発した。概要は次頁の表の通りで、Windows入門から電子メール、インターネット入門までを内容とするものである。

 今年の3月までにこれらの教材を使って、シニアの会員を対象に研修(2.5時間×5回の講座)を行った。1回の人数は、8〜12名で、3回実施した。

■研修指導者(パソコンアドバイザー)の養成
 受講希望者はまだまだいる、ということで、パソコンアドバイザーを養成し、その人々を指導者として、研修を続けることになった。自分の経験を活かして、これから初めてパソコンを学ぼうとする人をサポートしたい、パソコン研修に講師として参加したいという人を会員の中から募集する。そしてその人たちに「指導者養成研修」を実施して実力をつけてもらい「アドバイザー」として活躍してもらおうという「アドバイザー認定制度」を設けた。このアドバイザー養成のための研修を設けたことが、三鷹のシニアグループの活動の特徴である。
 このアドバイザー養成研修の内容は下表のようなもので、パソコン技術から教育指導方法にまでわたるなかなか本格的な内容である。自分の経験を活かし是非アドバイザーになりたいという希望者も多く、現在31名の会員がアドバイザーの認定を受けている。

[ アドバイザー認定研修の内容
○基本技術研修
・ワープロ、表計算ソフトの基本機能
・ネットワーク設定演習
・電子メールの設定演習
・ソフトウェアのインストールおよび圧縮・解凍
・プリンター接続とドライバ設定演習
○指導技術研修
・PCアドバイザーの役割について
・ボランティアとコミュニティビジネスの違い
・シニア/初心者に対応するためのノウハウ
・能力開発の考え方の基本
・主体的行動力を育てるプログラム学習


パソコン研修中のアドバイザーと受講生


Windows入門学習教材セット


■ITスキルを核にした新たなコミュニティの輪
 これらのアドバイザーが実施する「パソコンリテラシー研修」は大変好評で、今年の4月からは三鷹市が出資する地域振興のための企業と提携し、シニアだけではなく一般市民を対象に呼びかけて実施することになった。公共自治体が実施する無料のパソコン講習会と異なり、有料の講習にも関わらず毎月4コース(1コース:2.5時間×5回、¥15,000、定員12名)のコースは秋口まで予約いっぱいの状態になっている。
 企業人としての勤めを終えたシニアが新しい形で地域とのつながりを求めてコミュニティビジネスの輪を広げようとしている。その入り口としてのITスキルは、年齢層を問わない社会参加能力のひとつと位置づけられるだろう。

■三鷹から全国への広がりを期待する
 そのような実社会のニーズに応える形で能力開発工学センターの理念とする「学習者が主役の主体的行動力を育てる学習システム」が利用され、効果をあげていることは大いに意義があることだと思う。
「コンピュータリテラシー」は、日本で初めて能開センターが15年以上前に紹介した概念である。それがここにきて全国民に実感として認識されるようになった。年齢層に関わらずIT化の波は加速度的に押し寄せている。この三鷹でのシニアを中心とする新しい地域社会創造の動きは、日本全国の動きとなることは間違いないだろう。


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