能力開発ニュース52号2000.8.28発行
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【看護セミナー報告】

       能力開発工学センター主任研究員 矢口 みどり

 看護教育誌に掲載した矢口(み)の二つの論文「学生の主体性を読み取る」(98年6月)、「看護のセンスを育てる」(2000年11,12月)がきっかけとなって、高山赤十字看護専門学校から依頼を受け、セミナーを行いました。行動学的な視点が主体性の育成を課題としていた研修計画担当の方の心をとらえたということで、下記のようなプログラムを組み実施しました。

   人間行動の見方
      ―主体的に行動する看護者を育てるために―
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日 時: 7月1日(土) 9:00〜16:00
場 所: 岐阜県高山赤十字病院講堂
対 象: 高山赤十字看護専門学校教員及び病院臨床指導者 計32名
講 師: 矢口みどり、叶内盈子

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1.「教育する」から「学習する」へ
   脳行動学を土台にした教育観への転換
          (講義 30分)

・行動を生み出すのは脳
  主体的であるというのも、主体的でないというのも、どちらも脳の働き方(行動習慣)である。
  行動のしかたを変えるには、脳の行動習慣を変えなくてはならぬ。
・脳は「行動したことを学習する」
  言葉でいくら「主体的になれ」と言っても、脳の行動習慣は変わらない。主体的な行動を生み出すようになるには、自分で対象を測定し、決断し、行動するという、主体的行動の経験を積み重ねなければならない。
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2.主体性を引き出す(育てる)行動の場とは
  「カレーライスを作る母と子の行動から考える」
          (演習 50分)
・主体性を引き出す(育てる)場とは
・主体性を引き出す(育てる)場を作るために必要な能力は
  主体的に行動すること母親の指示でしか行動しない子の二つの例を分析して、考える。
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3.行動分析演習
事例1「卵を割る」(ビデオ)
 事例2「リンゴの皮をむく」(ビデオ+実物)
事例3 学習指導の例(ビデオ)
         (演習 100分)
・人間はどのように行動を生み出すか
・「できる」と「できない」、何がちがうのか
・どのようにして「できる」ようになるのか
  主体的な行動能力を引き出す(育てる)ために必須な、人間の行動能力の見方の基本をとらえる。
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4.人間行動を見る・応用編
   ―コミュニケーション行動―
事例1「なぜ展開が変わったか」
 事例2「否定的な返事が返ってきたが‥‥」
         (演習 150分)
・コミュニケーションを行動として見る
・言葉を生み出すものの分析
・言葉から気持ち、姿勢を読みとる行動
・相手の気持ち、姿勢を受けとめる行動
・相手を受けとめる姿勢を表現する行動

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5.まとめと質疑応答
             (20分)
・人間の脳の本性は主体的
  講義で話を聞かせ、実習で手順を記憶させるということは、脳の本性に合わぬ行動習慣を押しつけていることになる。
・主体的な人間を育てるのは‥‥
  いかに、その人自身の脳に、対象を測定させ決断させ、主体的な行動を積み重ねていくかにかかっている。

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◆セミナーを終えて
「自分が主となって活動することが、主体性を育てる」とセミナーの中で主張していることを、まさにセミナーの中で実感している。
最初の演習「2.主体性を引き出す(育てる)行動の場とは」での反応が楽しい。ここ数回、同様のプログラムでセミナーをやっており、従来は会話のビデオ教材を見せてやっていたのだが、最近は方式を変更して受講生に役割分担して、母と子を演じてもらうようにした。変更後、学習者の学習へのノリがよくなった。演じた後の受講生の姿勢がぐっと変わるのだ。リラックスし、積極的になり発言がふえる。1回目より2回目が更に良くなる。演じ方も気が入って実にうまくなる。セリフの自主的付け足しや、方言も飛び出すほど。演じたグループのムードは他のグループに増して良くなる。
ビデオ教材の場合は、学習者は見るだけのことになるので、どうしても情報を受け取るという受け身の姿勢になってしまうのだろう。                          

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