能力開発ニュース52号2000.8.28発行
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「教育革新の思想・テクノロジー・展開」(矢口 新 選集)に寄せてG

探究の態度を育てる実践について


                  北陸ADE研究会 盛野 成信 


 現在の学校教育が人間を育てることになっていないという指摘がなされて久しい。しかし具体的にどうすればよいのかという実像がなかなか見えてこない。選集第3巻は、まさにこの病める教育の根を絶ち、新たな方向に改める実相に迫る教書である。

 現在、自然科学の教育で問題になっていることの一つに、自然の探究の態度を形成するにはいかにあるべきかという問題がある。この問題は、教育問題としては極めて重要な問題であって、近代教育においては、自然を探究する教育というそのものを明確に教育の中には位置づけていない。むしろ、特定の結果を知識として注入することに重きをおいている。(中略)
 科学が人間との関係で批判を受けつつあるのは、まさにその原因の一端が古い教育にあるといえよう。そういう意味で、自然を探究する態度を形成することを、すべての人間のものにすることは重要な意味をもっていると言えよう。           (矢口 新 選集 第3巻 13頁より)

 今日の科学教育における子供たちの学習の場は、ご承知の通り、教科・教科書・教師の3本の柱によって揺るぎない構造に組まれている。これを児童生徒の主体的行動学習の場に切り換えようとするとき、その転換は言語で言うように簡単にはいかない。やはり、現状では、校内で孤立しながらも少しずつ実践を積み上げていく方法よりないと思う。さらに、このように温かい背景にあって実践を進める上に配慮すべきことは、心ある教師に対し、「探究行動形成のための学習システム」と従来の授業で育つ人間の能力の違いについて、実践に参加していただきながら共に研修し、納得してもらうこと。その後で、自発的に課題を設定し、仲間と一緒に学習システム作りを手がけていただくことである。

 しかし、これでは遅すぎるというなら、例えば、今日の人間が生み出した環境破壊や日常のゴミ処理問題等の根底にある人間のあり方を問い直すための生活学習システムを作ることを実践したらどうだろう。これによって、生活者としての日常行動を育てるのである。やや生涯学習の範疇に入るが、人間の行動をつくる総合学習となることに変わりはない。
 近代文明は、科学を基礎にして成立しているのである。その科学を虚心に探究する態度を身に形成することこそ、近代社会の生活者となる第一の要件であろう。そのための学習のあり方が問われているのである。国が活力ある国家として発展し、科学技術創造立国、文化立国を目指していくためには、あらゆる社会システムの基礎となる科学教育の果たす役割は重要で、その育成こそ焦眉の急である。 

教育革新の思想・テクノロジー・展開
矢口 新 選集(全7巻)


第1巻 教育革新への提言
−脳科学を土台にした行動形成−
第2巻 能力開発のシステム
第3巻 探究的行動力を育てる学習システム
第4巻 コンピュータリテラシー教育の提唱
     教育へのコンピュータ利用の研究
第5巻 創造する心・技術の形成
第6巻 生きがいに挑戦する人間の育成
別 巻 地域教育計画とその展開
      −富山県における実践−
頒布価格 20,000円(送料、税別)
*能力開発工学の創始者 矢口 新(前所長、故人)の著作集

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